杏の咲く頃







「け、けんしん・・っ」


わたしの腕を掴むその手は強く
わたしを拘束するその身体はとても熱い
それなのに降ってくる口付けはあまりにも優しくて
抵抗する腕とは逆に
心は身を委ねたいと叫んでる

理性
抑制
世間体

触れ合う中でそう言った言葉はわたしたちには存在しない
そんなもの意味を持たない

抱きしめ合うことが
口付けを交わすことが
身体を交えることが
人間の最大の愛情表現だというのなら
わたしたちはきっとどこにいても
どんな時でも
求め合うことを止めないだろう

「ん・・」

わたしの掠れた声が好きなんでしょう
あなただけの色に染まる肌が見たいのでしょう
こんな外であなたに愛されて
淫らに歪むわたしの顔が愛しいのでしょう
そんなわたしの全てを
この桜の前で見せつけたいのでしょう

だったら全て見せてあげる

こうやって二人で抱き合って
このままこの桜と一緒に溶けてしまえたら
わたしたちはずっとずっと、死んでも一緒にいられるのかな



「ぁっ・・」
「薫殿・・?」
細い指がわたしの瞼をなぞる。
それを追うように瞼に口付けられて
「きついでござるか・・?」
「だい・・じょうぶ・・」
これは歓喜の涙だから
もっともっとわたしを求めて
貧欲なくらいわたしを求めて


「・・くっ」
耐えるように唇を噛み締めて
いくつもの汗を零す
そんなあなたがこの上なく愛しい
どんな綺麗な桜よりも
わたしの心を魅了する


「はぁっ・・」
息をするのも忘れて口付けを交わすのが好き
全て繋がっていたくて
指を絡めて
唇を重ねて
舌を絡めて
身体を合わせて
心を繋げて


それでもまだ足りない


そんなわたしたちが本当に一つになれたと感じるのは
共に快楽の果てをゆく瞬間だろうか


その瞬間が待ち遠しい


桜の花びらが汗ばんだわたしたちの身体に舞い落ちる
まるでわたしたちをあざ笑っているかのよう


それでいいの
だってわたしたちはとても幸せなんだから―










(終)













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