口付けが伝えるもの







「あ、おかえりなさい。
お使いご苦労様」


「・・・・・・。」



「・・・・剣心?」


何も反応のないことを不思議に思い
薫は動かしていた手を止めて振り返ると
きょとりとした顔で剣心が見つめていた。


「・・・・どうしたの?」


同じようにきょとりとした表情で見つめてくる薫に、
剣心は思い出したように笑顔を繕った。


「なんでもないでござるよ」


にこりとそう笑って、剣心は両手に抱えていた大量の荷持を床に置いた。



(・・ずいぶんとサマになってきたでござるな)



―御勝手に立つ姿が



そう考えると自然と笑みが零れてしまう。


どしり、と鈍い音と共に置かれた荷持を見て
薫はまた大量の買出しを頼んでしまったことに気づいた。


「ごめんね。いろいろ頼んじゃって・・重かったでしょう?」
「いや、大丈夫でござるよ
それよりも・・」


剣心はくん、と鼻を動かして匂いの方向に顔を上げた。


「煮物でござるか?」
「あ、うん。
こないだ教えてもらった茄子の煮物。
前は失敗しちゃったけど、今回はおいしくできそうなの。」
「前回のは煮物かどうかも匂いではわからなかったでござるからな」
「も〜!ひどいわね」


からかうように言う剣心に、薫は半ば冗談で怒りながらもてきぱきと手だけは動かしていた。
剣心が横から覗いて見てみると、どうやら薫は味噌汁の野菜を切っているようだった。

うんうん、と剣心が一人満足気に頷く。


「そういえば薫殿、操殿たちは?」
「さっき様子見に行ったらお昼寝してたわ。
毎日のように出かけてたから疲れちゃったのね。
おかしくて笑っちゃった。
弥彦と仲良く大の字になって寝てるのよ」


笑いながらそう言う薫の声はころころとしていてとても楽しそうだ。


「そうでござるか。
蒼紫はまた寺でござるか?」
「うん。
夕刻までには戻るって言ってたから、蒼紫さんが帰ってくるまでにごはんつくっちゃおうと思って」
「それなら拙者も手伝うでござるよ」
「あら、剣心は休んでていいのよ?
もう一人でつくれるし、見張りなんていらないわ」
「そうゆうつもりじゃないでござるよ。
ただ、薫殿と一緒にいたいなと思って」


ふと、包丁の音が止んだ。


「薫殿?」


不思議に思って後ろから覗き込んでみると、薫の顔が赤く染まっていた。

照れているようだ。
おもしろいくらいぽぽぽ、と赤くなっていく。


特に深く考えず思ったままを言っただけだったのだが
こんな風に反応されて剣心の頬も思わず赤く染まってしまった。


「恋人」になってからわりと月日が経ったというのに

こんな言葉さらりと言ってのけられる程の時間を共有しているというのに


薫は今だ慣れない



剣心もだ

薫に同じことを言われたら
きっと剣心も同じような反応を見せていたに違いない


そんな自分がおかしくて
そんな自分が幸せで


自分にこんな感情を与えてくれる薫が愛しくて


気づいたら、手が動いていた。


「けん・・」


腕を引き寄せて
優しく包み込むように重なった唇


少し久しぶりの口付けだった。


操たちが遊びに来てからというもの
なかなか甘い時間を持てなかった二人のささやかな触れ合い。


そっと、剣心の手が薫から包丁を取り去った。
一度離れた唇はもう少し、と再び重なることを望む。


剣心が薫の背中に腕を回して
それに答えるように薫も剣心の腕に手を添える


次第に深くなる口付けは二人から理性を奪い去り
静かな空間に響く水音は二人の欲を引き出していった。


「ん・・ぅ・・」


もっと、もっとと。


寂しかったと
恋しかったと


一緒にいるだけでは
傍にいるだけでは物足りない何かがある


互いの体温を感じないと満足できない


触れて
確かめて
与え合って


そんな二人になってしまった


口を吸いあう度、今にでも零れ落ちそうな互いの想いが溶けて一つになっていくようだった。
二つの舌が出会うと、その想いがが急激に加速し出した。


気づけばお互い頭を掴み合い
奥の奥まで
深く深く求め合う


だんだんと乱れていく息さえ愛しくて
少しの隙間もつくるまいと、何度も角度を変えた


「ぁっ・・」


体重をかけられて、薫の足が一歩後ろに下がった

流し台に背中を預けて
剣心の愛撫に身をまかせる


薫の顎を舐め上げて剣心はそのまま吸い込まれるように首筋に顔を埋めた
いつの間にか剣心の手は着物越しから薫の胸元を何度も行き来していて


(このまま・・)







不埒な手が薫の胸元の襟から滑りこもうとした、その時・・・




「薫さ〜〜〜〜ん?」



どかっ!






ばたばたっ・・






がしゃん!




激しい音に首を傾げなら御勝手に来た操が見たものは


床に散らかった野菜と
なぜか胸元を押さえる薫と
これまたなぜか腹を押さえて床に転がる剣心の姿があった




「・・――――――−なんかあったの?」




操は起きたばかりでまだ寝ぼけてるのか、冷静にその状況を眺めながら言った。


「な・・なんでもない!
なんでもないのよ!ちょっと剣心に料理を教えてもらってたんだけどうまくいかなくて・・
ね?剣心?」
「・・緋村、気絶してんじゃない?」
「あ、あはは!
やぁね、寝るなら部屋で寝ればいいのに!
それより操ちゃんゆっくり寝れた?」
「うん!ぐっすり寝たよぉ
おかげですっきり!」
「それはよかったわ」
「ね、薫さんよかったらなんか手伝おっか?」
「あ、ありがとう。
じゃあとりあえず落としちゃった野菜を一緒に拾ってくれる?」
「はーい!
ちょっと緋村?あんた邪魔だからどっか行っててよ」


(・・ひどすぎるでござる・・)



はやく何の邪魔もなく二人きりになりたい
そう強く心の中で願った剣心であった




それは薫も一緒で


(ごめんね剣心〜〜)



床に崩れたままの剣心を横目で見ながら
薫が心の中でそう呟いた。






(終)












「指先が伝えるもの」小話その1。

操ちゃんたちが滞在中に我慢できなくていちゃついちゃいました。

読み直してみると拍手の「初めてシリーズ」の花嫁修業編にちょっと似てますね。

料理がうまくなってく薫殿を嬉しそうに見守る剣心というシュエーションがとっても好きなんです。






















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