ーThe round xxー










少しこもった、だけどどことなく甘い声が響いていた。








「んー」





「んー・・・」






「んーっ・・・ん!」






耳たぶに熱い息を感じて薫がひと際大きく肩を震わせた。





「ここ?」



薫の反応を楽しそうに見下ろしながら剣心が尋ねた。
もう一度息を吹きかけるように顔を寄せると薫の手がそれを制した。


「くすぐったいの」


そう言いながらも拒みきれない薫の手を剣心が片手で掴む。


「じゃあここは?」


剣心が薫の喉に軽く歯を立てた。


「ちょっ・・やめてってばっ」



手を掴まれたまま薫は身を捩りながら剣心の攻撃から逃げようとするが
つかさず唇を奪われて逃げる意欲を失わされる。
薫は息をする間もなく降ってくる口付けに眉を歪めながら
先ほどの会話を少しだけ後悔していた。









特にすることもない午後のゆったりとしたこの時間。
昼飯を食べ一通りの家事を済ませ、出かける用もなかったので
居間で二人、なんでもない会話を交わしながら暇を持て余していた。
少しずつ春の気配を感じるようになったもののこんな風に風の吹く日は寒くてしょうがない。
こたつだけでは一向に暖かくならず、だけど半纏を取りに部屋へ行くのも億劫だと
薫は冷えた身体を温めるようにしきりに腕をさすっていた。


「薫殿、此処へおいで」


そんな薫を剣心は自分の懐にしまい込むように後ろから抱きしめた。
前にはこたつ、後ろには剣心と暖かいぬくもりに薫がうっとりと身を委ねていたのだが・・
油断は禁物、あっという間に押し倒されて今の状況に陥ってしまった。


暖かいこたつに身を沈めてじゃれ合うその様はまるで猫のようだ。





「あっ」




さっきまで抵抗していた薫の声に艶が交じり始め、剣心が満足気に微笑んだ。
少しだけ乱れた襟元から手を忍び込ませても薫が文句を言う様子はなかった。

それならば、と剣心が薫の胸元に顔を埋めようとした、その時―









「おーい、誰かいるかー」





薫が勢いよく剣心の肩を押し返した。


「こ、この声・・・」


かすかに聞こえてきた声に同意を求めるように薫が剣心を見上げた。



「・・・左之、でござるな」


こんな時に、とでも言うように剣心がため息交じりに言った。
全く、タイミングが良すぎるものだ。


さっきまでの雰囲気はどこへやら
そそくさと起き上がろうとする薫を見て剣心も名残惜しそうにしながらも薫を解放しようとした。


しかし、何を思ったのか剣心は薫の肩を掴むともう一度床に押し付けた。


「ちょ、剣心?」
「このまま返事をしなかったら入ってこないでござるよ」
「え?」
「誰もいないと思って帰るはずでござる」


一瞬剣心が何を言ってるのかわからなかったが、
さっきよりさらに身体を密着されて やっとその意味を察した。


「な、何考えてるのよっ」
「薫殿、しーっ。」
「しーって、鍵は開いてるのよ!
入ってきたらっ・・」
「いくら左之でも声がしなかったらここまで入ってこないでござるよ。
縁側でごろごろしてるでござろう」
「でもっ、んーっ」


ばたばたと暴れる身体を押さえつけて、剣心が聞かないとばかりに濃厚な接吻を施した。
薫の力が抜けたのを感じながら剣心は心の中でそっと左之助に謝った。









狭い中で重なるように寝転がって
身体を動かす度にこたつが軋むような音を立てて揺れた。


左之助の声はもう聞こえない。
剣心の言ったように誰もいないと思って帰ったのだろうか。
申し訳ないことをしたな、そう思いながらも薫は剣心から与えられる愛撫に身をまかせた。


見上げる天井の木目がいつもと微妙に違う。
みんなが集まる居間で、ましてやこたつの中で致していることを
はしたないと思うと同時にどうしようもなく官能的に思えた。




「っ、」




剣心が薫の耳から鎖骨にかけて丁寧に唇を落としていく。
幾つか痕を付けられたのも感じた。


「ん、薫殿・・・」


薫がお返し、とでもいうように剣心の首に手を回し鎖骨の少し下に唇を落とした。
ほのかに赤く染まったその部分を指で撫で、今度はもう少し下の胸の辺りに再び強く口付けた。
それに刺激されたように剣心は小さく喉を鳴らすと
勢いよく薫の首筋に顔を埋め胸元を大きく開いた。


肌が空気に晒された部分が気持ちよかった。
こたつの熱と剣心の体温に包まれて薫の体はすっかり火照っていた。







暫くして再び左之助の声がしたのが聞こえた気がした。
縁側のあたりでうろうろしているのかもしれない。




だけど薫はすでにそのことにかまっている余裕がなかった。


剣心が薫の帯を解いた。
それを手伝うように薫も自分の帯に手を回すが急いた剣心の手が乱暴に帯を引っ張るせいで
薫は揺さぶられる自分の身体を支えるのに精一杯だった。

やっぱり部屋に行こう、そんな言葉がさっきから何度も出そうになったが
右脚を抱え上げられて剣心が自分の袴の腰紐を解きにかかったのを見て言うのをやめた。


剣心が薫の背中に腕を回し、腰が浮いたのを感じた。
閉じた瞼の向こうで剣心が袴を脱ぐ衣擦れの音が聞こえる。







ふと、その音が止んだ。





そのまま何も動きを感じない。
不思議そうに薫が目を開けると額に手を当てため息をつく剣心がいた。



「剣心?どうし・・」








どたっどたっどたっ






廊下から聞こえてきた大きな足音に薫の表情が固まった。



ま、まさか・・



「きゃっ」



薫が何か言おうと口を開けるより先に剣心が薫の腕を引っ張った。

薫の視界が暗闇でいっぱいになった。















「なんだよ剣心、いるんじゃねぇか。」
「おろ?左之、来てたのでござるか」


案の定、大きな足音を立ててやってきたのは左之助だった。


「さっきから何度呼んでも返事しねぇから誰もいないかと思ったぜ」
「それはすまなかったな。
風がうるさくて聞こえなかったようでござる。」
「ほんと今日はすげぇ風だな。
外で待ってようと思ったんだけどよ、あまりにも寒いもんで勝手に上がらせてもらったぜ。
お〜やっぱ部屋ん中はあったけぇな」
「こんな寒い日にそんな格好で歩きまわるとはお主もタフでござるなぁ」
「タフなんじゃなくて頑丈なんでぃ。
そういや嬢ちゃんは?いるんだろ?」
「あぁ・・ちょっと用があって出かけてるでござる」
「なんだいないのか。
じゃあ今日は剣心一人で留守番か。
ちょうどいい、俺も暇なんだ。
外は寒いしゆっくりさせてもらうぜ」


そう言って左之助は部屋へ入ると剣心と反対側へ回った。



「左之」



腰を下ろしこたつに入ろうとした左之助を引き止めるように剣心が言った。



「腹はへってないでござるか?」
「ん?おお、俺の腹はいつでも食べる準備満タンだぜ」
「昨日買っておいた饅頭があるでござるよ。」
「いいねぃ、いただくぜ」
「御勝手の棚に置いてあるでござる」
「んん?剣心、おめぇ俺に持ってこいって言ってんのか?」
「かたじけない」
「しょーがねぇなぁ。
こたつから出たくないってか。
剣心もじじぃになったもんだぜ」
「余計なお世話でござるよ」
「わかった、取ってきてやるよ。棚だな」
「ついでにおたたかい茶も頼むでござる」
「へいへい」



面倒くさそうに左之助はその大きな身体を持ち上げて廊下を出ると
またあの大きな足音を立てながら御勝手の方へ向かっていった。

足音が小さくなるのを確認すると剣心はそっとこたつの裾を持ち上げた。



「薫殿、もういいでござるよ」


もそもそ、と剣心の腰の横あたりが動くと
中から頬を赤くした薫が顔を出した。


「あつい〜!」


四つん這いになりながら身体半分をこたつから出して薫が思い切り息を吸った。
髪はすっかりぐちゃぐちゃ、着物はさっきの行為で乱れに乱れひどいあり様だった。
尽かさず薫が剣心を睨む。


「ちょっと剣心!
左之助が取りに行ったお饅頭ってわたしが昨日食べないで残しておいたやつでしょ!?
左之助にあげちゃうなんてひどい!」
「し、仕方ないでござろう。
他に思いつかなかったんでござるよ。」


他のことで真っ先に怒られると思っていた剣心はなによりも饅頭のことで頭がいっぱいな薫に
こんな状況ながらも思わず笑いそうになってしまった。


「このお返しはあとでちゃんと頂きますから!」
「それより薫殿、はやく部屋に戻るでござる。
薫殿は出かけてることになってるから」


饅頭は、また買ってくるから。
そう小声で囁きながら剣心は薫の胸元を隠すように着物を整えてやった。


「ここはまかせるでござる」
「それより剣心、剣心もそれなんとかした方がいいわよ」
「ん?」


薫が冷ややかな目で見つめる先を追うように剣心は自分を見下ろした。


「お、おろっ」


見るとすっかり戒めを失った袴は剣心の膝のあたりでくしゃくしゃになっていた。


危ない危ない。
すっかり忘れていた。
剣心が焦ったように脱げかけた袴を履き直すのを横目に薫はこたつから抜け出した。


左之助がまだ戻ってこないのを確認して薫は部屋を出ると
音を立てないようにしながら小走りで自分の部屋へ向かっていった。








少しして、またあの大きな足音が聞こえてきた。


どうやら薫は無事部屋に戻れたらしい。
ほぅ、と軽く息を吐いて剣心は左之助が戻ってくるのを待った。


「おい、饅頭一つしかなかったぜ」


片脚で襖を閉じながら左之助が言った。


「そうでござったか。」


中途半端に閉まりきれていない襖をちらっと見ながら剣心が言った。


一つだけ饅頭の乗った皿と二つの湯呑みがこたつの上に置かれた。
よく考えると左之助が茶を淹れるなんて夏に雪が降るくらいおかしなことな気がする。


「拙者は茶だけでいいでござるよ」


そう言い終わるより先に左之助は饅頭を口に頬張っていた。


「わりぃな」


そんなことこれっぽっちも思っていないような顔で
左之助はおいしそうに口を動かしながら言った。



「・・・・・・・・・・・苦い・・・」



ぼそっと剣心が顔をしかめながら呟いた。


「驚け。
生まれて初めて茶を淹れたんだぜ」


自慢気にそう言いながら左之助も湯呑みに手を伸ばした。


「にげぇ・・・」


舌を出して左之助も顔をしかめた。





「で、何か拙者に用でもあったのでござるか?」


饅頭を平らげて満足そうに喉を鳴らす左之助に剣心がぶっきら棒に言った。


「んにゃ、別にこれといって用はないぜ。
ただどうしてっかなと思ってよ」


「・・・そうでござるか」


どうせそんなとこだろうとは思っていたがやはり聞くだけ無駄だったようだ。


「あ、そういや・・」
「なんでござる?」


左之助が何か思い出したように口を開けた。


「・・・・・いや、なんでもねぇ。」
「・・・・?」
「なんでもねぇって」


剣心の視線を払うように左之助が手を振った。
そのままその手で湯呑みを取ろうとして左之助が一瞬止まった。

左之助の目はある一点を凝視したまま動かずにいる。



「・・・・・・おい、剣心」
「なんでござるか?」
「見えてるぜ」
「・・・・・・見えてる・・・?」


なんのことだかわからなくて剣心が軽く首を傾げた。


「ここ」


左之助がちょいちょいと自分の首のあたりを指さした。


「おさかんなようで」


にやにやといやらしい顔でそう言う左之助に剣心がやっとその意味を察したのか
さっとその部分を隠すように手をおいた。



しくった
すっかり忘れていた


そこに今も残っているであろう赤い痣。
それはさっき薫によって付けられたものだ。
袴を履き直すことに気をとられてて上のことなど頭から抜けていた。
いつもだらしなく着物を着ているので大きく前が開いていても気にならなかったのだ。


「昨夜のか?」


相変わらずにやけた顔で左之助がそう訪ねた。


「さぁ・・忘れたでござる」


剣心は冷静に襟元を気持ち程度直しながらそれだけ答えた。
無駄に言い訳がましいことを言えば感のいい左之助のことだ。
その痣が実はたった今さっきこの場所で付けられたもので、
こんな時間からこんな所で痣をつけるようなことを致していたことが必然的にばれてしまう。


「仲が宜しくていいな。
寒い冬もへっちゃらってか」


からかうようにそう言いながら左之助がごろりと寝転がった。
大きな足が剣心の膝まで届いてこたつの中で触れた。



―長居する気か・・・



思わず剣心が小さく舌打ちをした。


特に用がないのなら帰ってほしい。
いつもの剣心ならそんな風に左之助を追い出すことはないのだが
なにせ今日は間が悪すぎる。
部屋に戻っていった薫も気になるし、何より今の自分の状況は最悪なのだ。
薫の生肌に触れて、袴まで脱ぎ捨てて
さぁ、いざというところでおあずけを喰らっているというのに
のほほんと茶を啜っていられるわけがなかった。


そんな剣心に気づかず左之助は両手を頭の後ろに置いて
「あったけ〜な〜この部屋」などと一人言を言っている。
無意識に左之助に殺気を送ってしまう自分を一生懸命抑えながら
剣心はひどく苦い茶で気を間際らした。








暫くの間沈黙が流れていた。
時計の音だけがかち、かちと規則的に響いている。
左之助は眠っているのか、寝転がったまま何も言ってこなかった。
剣心も剣心で特に話すこともないので手元にある湯呑みを眺めていた。






「なぁ」



やっぱり苦すぎる、そう思って剣心が茶を淹れ直そうと席を立とうとした時
左之助が口を開いた。



「嬢ちゃん最近色っぽくなったよな」



意外なことを言われて剣心が一瞬返答に困った。



「・・・そうでござるか」
「おお。
いい女になってきたっていうかよ」


何か詮索しているような発言に剣心は無意識にかまえた。


「ちょっと前までは弥彦と大して変わらなかったのによ。
最近ちょっと落ち着いたってゆーか、わかるだろ?」
「薫殿もおなごでござるからな」
「そ−じゃなくてよぉ」



左之助がじれったいとでもいうように起き上がり剣心に視線を合わせた。



「嬢ちゃん、どうだ?」
「どうって、何がでござる」
「わかってんだろ?」
「わからないでござるな」


白を切るような態度に左之助が前のめりになって言った。


「そんな痣付けさせてんだ。
それなりのことやってんだろ?
最近嬢ちゃん腰のあたりが色っぽく・・」

「左之」



ぎっと、剣心が左之助を睨んだ。
何度やられてもさすがにこれには慣れないようで左之助が少しだけひるんだ。



だめか、とでもいうように左之助が乗り出していた身を戻した。
しかしふと何か思い出したように左之助が言った。




「嬢ちゃんほんとに家にいないのか?」
「出かけてると言ったでござろう」
「どこ行ってるんだ?」
「・・・・・・・・さぁ・・用があるとしか言ってなかったでござるな」
「そっか、いねぇのか」
「・・・・・・何が言いたいのでござる」
「いや、さっき玄関から入ってきたんだけどよ。
嬢ちゃんの下駄もあったからてっきりいるのかと思ったんだよ」
「・・・・・・・・・・こないだ買ってた新しいのを履いて行ったのでござろう。」



ひきつった表情を見せまいと剣心は左之助から視線をはずした。


「そうか、そうゆうことか」


それだけ言って左之助がそれ以上深く追求してくることはなかった。






また少し、沈黙が流れた。
異様な空気の中お互い顔を合わせずどこか考え事をしているようだった。




先に口を開けたのはやっぱり左之助だった。


「あったまらしてもらったぜ。」


少し冷めた茶を一気に飲み干して左之助が言った。


「帰るのでござるか」
「おう、今度は手土産でも持ってくるぜ」


こきっ、と首を鳴らして軽く伸びをすると
左之助はこたつから出た。
思わず剣心が安堵のため息をいた。


危なかった・・


もう少しでボロが出るところだった。
こうゆう余計なところで左之助はいつも鋭い。
何かしら疑ってはいるのかもしれないがとりあえず免れそうだ。


今日の勝負はとりあえずこっちの勝ち、というところか・・・





「お、そうだ」


そのまま立ち上がろうとして左之助は自分の座っていた座布団の横に手を伸ばした。


「これ、俺の尻の下にあったぜ」


そう言って左之助は剣心に手の中のものを差し出した。


「!」


それは今日薫が付けていた桃色のりぼんだった。



そういえばさっきこたつから出てきた時、薫はりぼんをしていなかった。
知らないうちに取れてしまったのだろう。


なぜこれがこんなところに落ちているのか。
左之助がわからないわけがなかった。


剣心の痣と、
出かけているはずの薫の下駄、
しまいにはこたつの中に薫のりぼん。



剣心の無敵のポーカーフェイスが破られた瞬間だった。


「さ・・」


「おい嬢ちゃん、俺もう帰るからよ、出てきていいぞー!」


廊下に向かって大きな声でそう言う左之助に剣心は今度こそ大きくうな垂れた。


「それから、昼っ間から仲良くするんだったらせめて部屋でやれって
剣心によく言っておけよなー
誰がいつ来るかわかんねぇぞ。
な、剣心?」


満足そうに左之助が剣心の背中に言った。


「んじゃま、いろんな意味でお邪魔したな」


口笛を吹きながら左之助は相変わらず大きな足音を立てて出て行った。




左之助が玄関を閉めた音が聞こえたと同時に
ばたばたと大きな足音が怒り狂った気配と共に近づいてくるのを感じた。



「・・・・・・さて、薫殿にどうやって許してもらおうか・・・」





完全なる不敗に剣心はなす術なく頭を抱えた。






覚えてろ。
次は絶対に絶対、負けないからな。







(終)










えろ馬鹿コメディを目指しました。

なのでタイトルもお馬鹿に横文字。

毎度阿呆でごめんなさい。

左之助があのまま神谷道場にいたら、という妄想が止まらないのです。

二人の男同士のこんな会話・・聞いてみたかったなぁ。

剣心も言うとおり次のラウンドでは左之助を負かしてやれたらなと思います(笑)

いつかね、いつか。


左之助の活躍がもっと見たいという方、クリックされると宜しいかと思われます。



左之助好きだー










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