女とは、よくわからない生き物だ。




「ふ・・・」


どことなく苦しげなため息。
しかしそこには確かに甘さがあった。


「ぁっ・・・」


ぎこちない声。
しかしその音が、唇を重ねる度にせつなさを増していくように感じられた。


「っ、ちょっ・・・け、剣心待って・・・」


否定の声も弱々しく肩を押し返す腕も、ただの照れ隠しに過ぎないのだと思った。


「まっ・・・ってってばぁあ!」


ばきぃ


―勘違いだったようである。


「いっ・・・」
「ご、ごめんなさいっ。剣心大丈夫!?」
「だ、だいじょうぶ・・・」

(じゃ、ない・・・)


まさに懇親の一撃。
こんな状況でも手加減は一切なしである。


「ご、ごめんね。わたしつい・・・」


その可愛らしい声にこの力は反則じゃないだろうか。
平手ならまだしも、拳でくるとはさすがに思わなかった。

しかしおかげで頭が少しすっきりしたようだ。


「いや、拙者こそすまなかったでござる。
その、つい」


ぶたれた、というよりは殴られた左頬を摩りながら
剣心は今さらながら自分の行いを反省した。
乱されかけた胸元を押さえる薫の瞳がうっすら潤んでる。

調子に乗りすぎたか。

次第に深くなっていく口付けが剣心の身体を昂ぶらせ、 勝手に薫を求め出した。
彼女の胸に手を伸ばしたのもほとんど無意識だったのである。
ついさっき初めて他人の唇の味を知ったばかりの娘には
そんな剣心の行動は少々性急過ぎたようだ。

傷つけてしまったか。
呆れられてしまったか。
嫌われてしまったか。

女子の扱いなどよくわからない剣心は、焦りにも似た気持ちで薫の様子を伺った。
そう思いながらも掌にじんわりと残る柔らかい感触が剣心に熱を与え、
それが冷める様子はない。
むしろその熱はどんどん加速し、ついには自己主張を始めた。
薫を組み敷いたまま不自然に下半身を浮かしているのもそのせいである。


そんな剣心の心の内を知る由もなく、薫はただじっと
剣心の次の言葉を待っているようだった。
潤んだ瞳は期待と不安を天秤にかけ、不安定に揺れているように見えた。


薫の口元につ、と糸が伝っていた。
幾度となく交わされた口付けが残した「跡」である。
それを指で拭ってやると薫が恥ずかしそうに顔を逸らした。
そのしぐさにさえ興奮を覚えてしまう。


「その、嫌ならもうしないから・・・」


そう言いながらも薫の上から退く気はなかった。
一度箍がはずれると止まることを知らない。
何よりも自分がわかっていることだ。

しかし、だからと言って強引に事を進める勇気もなければ
彼女のために潔く諦める事もできなかった。


「別にそんなこと言ってないじゃない・・・」
「じゃあ、もっと触れてもいいのでござるか?」
「なっ、なんてこと言うのよ馬鹿ぁ・・・」


馬鹿、と言われてしまった。
わからないのだから仕方ないではないか。

いいのかだめなのか、 できればはっきりしてほしい。
力なく声を上げ、終いには両手で顔を覆ってしまった薫に
それを要求するのは無理な話だと思うが。
その下が真っ赤に染まっているのは想像がつく。


―ここまでか。
困り果てた彼女に良心がちくりと痛んだ。

仕方ない。
少々きついが仕方ない。
いや、正直かなりきついのだがこればかりは仕方ない。
仕方ない、のだ。


「・・・嫌じゃ、なくて・・・」
「え・・・?」


心の中で必死に自分に言い聞かせていると、 か細い声が剣心の耳に届いた。


「・・・嫌じゃなくて・・・びっくりしただけ・・・
だから・・・・・・・嫌じゃ、ないの・・・」
「薫殿・・・」


矛盾した言葉と態度。
両手に隠された彼女の気持ち。
胸が、きゅっと締められる想いだった。


「あ・・・」


細いな。
薫の両手首を掴んで剣心は思った。
それをゆっくりと薫の顔からはがしていく。

綺麗な藍色の瞳がそこにあった。
その瞳に吸い寄せられるように剣心は薫を抱きしめた。

どこか頼りない体は 体重をかけたら折れてしまいそうだった。
それなのにどこもかしこも柔らかいのは、女子だけが持つ独特の感触なのだろうか。
薫の肩に顔を埋め、剣心は抱き寄せる腕に力を込めた。


「あったかい・・・」


そっと、薫の手がためらいがちに剣心の頭へと伸びた。
彼女のに比べたらひどく痛んで触り心地の悪い剣心の髪を
白く細い指が優しく乱していく。
やがてその腕が剣心の背中にゆっくりと回された。
触れ合った体温から彼女の気持ちが伝わってくるよな気がした。


「このまま寝ちゃいそう・・・」


とろんとした声が耳に心地良い。
しっとりと濡れた髪からは良い香りがした。
誘われるように剣心は薫の白い首筋に唇を寄せた。


「・・・ん、」


繰り返し啄ばんでいくうちにくすぐったそうに身を捩っていた薫から
艶っぽい声が聞こえてきた。
強請るように彼女の唇に自分のそれを寄せると
覚えたての口付けで返してくれた。

鎖骨に軽く歯を立てながら、剣心は薫の身体へ手を滑らせた。
ゆっくり、焦らすように背中を撫で、わき腹をなぞる。
様子を伺いながら腰の辺りも触れてみたが、 抵抗する様子はなかった。


これは・・・いいのか・・・?


剣心の胸に再び淡い期待が過ぎった。
思わず胸元にも手を伸ばしてみる。
先ほど触れた柔らかい感触が掌を包んだ。


「・・・ぅん・・・」


甘ったるい声に剣心の心臓が高鳴った。
同時に落ち着きかけた熱が再び熱くなるのを感じた。

全く、男というものはつくづくどうしようもない生き物だと思う。
馬鹿と言われても仕方がない程こうゆう時本能に忠実なのだ。
しかし、そんな部分もまとめて受け入れてほしいと思う自分がいた。


「・・・薫殿・・・拙者はまだ寝たくないでござるよ」


純粋な恋心と不埒な欲望。
形は違えども、 どちらも彼女を想っているからこそ生まれた感情だ。


「・・・このまま、薫殿を抱きたい」


一挙一動に頭を抱えたり
苦しい程の情熱に身を焦がしたり
どうしようもない愛しさを感じたり
せつなさも、優しさも、寂しさも、 全て彼女が教えてくれたもので。

彼女が紡ぐ一つ一つの言葉と想いが与えてくれた、「恋」というものなのである。

それを彼女に伝えたい。
そしてできるものなら、受け止めて欲しい。


「・・・・・薫殿・・・?」


しかし、彼女から答えはもらえなかった。
高鳴る鼓動を抑えきれず、もう一度名前を呼んでみる。


「かおるど・・・」





         





―甘い時間は、突然終わりを告げた。




「・・・・・・・・・・・嘘だろ・・・」




相変わらず腕はしっかりと背中に回されたままなのに

返事の代わりに返ってきたのは、穏やかな寝息だった。



男とは、どうしようもない生き物である。
だけど女よりはマシかもしれない。

女なんて一体何を考えてるのか、ほんとに、全く、全っ然理解できない。



男の苦悩劇は、まだ暫く終わりそうになかった。




(続)



下ネタちっくでごめんなさい。

「触っていいのでござるか?」「馬鹿!」

こんな会話、あってもいいと思う。

恋する故に、こんな剣さん一人くらいいてもいいと思う(笑)







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