「おめでとさーん!」


カランカランと甲高く鳴り響く鐘の音に薫は思わず耳を塞いだ。


「やったな薫ちゃん、一等賞だよ!」
「は、はぁ・・」


いつも威勢のいい声を響かせて商売をする魚屋の親父が
いつも以上に豪快に唾を飛ばしながら満面の笑みで薫に言った。
その声の大きさに通りすがりの人たちがざわざわと集まり出す。


「もっと喜ばなくちゃ!
ペアで温泉旅行が当たったんだよ!
そこのお兄ちゃんとでも一緒に行っておいで」
「ペアで・・」
「温泉?」



薫の少し後ろでその様子を見ていた男が続くようにそう言った。
そしてすぐに、男は顔をしかめながら舌打ちをした。


「なぁんで俺が嬢ちゃんと温泉になんか行かなきゃいけねぇんだよ?」
「それはこっちの台詞よ」


睨み合いながら吐き捨てるようにそう言う二人にかまわず
魚屋の親父はもう一度けたたましく鐘を鳴らすと
薫に茶色い封筒を手渡した。


中には、二枚の券。
魚屋の親父は二人に「楽しんでおいで」、というと
集まり出した客に向かって再び唾を飛ばし始めた。


「はい」


薫はその券を眺めながら少し考えた後、封筒の中にそれを戻すと左之助に差し出した。
しかし、左之助がそれを片手で制す。


「嬢ちゃんが当てたんだろ?」
「でも・・もともとは左之助の券じゃない」


あたしにまかせない!とかなんとか言って
自分から券を奪い取ったくせに何を言っているのだか・・
まぁ本当に当てたのだから文句の言いようはないのだが。


「いいよ。
俺が欲しかったのはそれじゃねぇ、あれだ」


そう言って左之助が首を動かして差したのは
山積みになった酒瓶だった。


「一等なんか取らねぇで二等で十分だったのによ。」
「じゃあ、もらっていいの?」
「おぅ。
温泉なんて俺は興味ないね。
誰かさんと一緒に行ってこいや。
で、後でおもしろい話しでも聞かせてくれりゃあそれでいいよ」


意味深に笑いながら左之助は薫の頭をぽんと叩くと
踵を返して行ってしまった。


「・・・・・・・・・・。」


左之助の後ろを見送りながら薫は手元に残った二枚の券を見つめた。


「・・・・・・えーと・・」





・・・どうしよう??




思いがけず手に入れてしまった景品に
薫は嬉しい気持ち半分、とまどう気持ち半分だった。




(続)





ほんとは拍手用に考えてた小話だったんですが

拍手にはちょっと長すぎだなぁと思ってこっちに載せました。

この時代にくじ引き・・ペアで温泉旅行だよー!

ありえないですね、はい。

タイトルは全部書き終わったら付けます。














SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送