―ある夜のこと(彼女の場合)―




「んむぅっ・・」
突然、視界がひっくり返った
目いっぱいに広がる、緋色の髪
閉じられた、長い睫毛
唇に感じる、熱くて柔らかい感触
何度か交わしたことのあるそのぬくもり
けど、なにかが違う
あなたが、違う―


わたしと剣心はいつもより少しだけ早めに夕飯を済ませた
いつもいるはずの弥彦は赤べこに宴会の客が入って遅くなるからと
今夜は向こうに泊まってくるらしい
思えば、それを伝えた時から剣心の様子はおかしかったのかもしれない
そんなに気にすることもなく稽古でかいた汗をお風呂で流して、
剣心の用意してくれてる夕飯に期待しながら居間へ向かった
二人きり―
そんなに意識する必要はないと思ってた
だって最近はなにかしら二人でいることが多いから
恋人同士になって、「二人きり」に慣れるくらいの時が過ぎていた
時間があれば寄り添って、他愛のない会話をするわたしたち
口付けにも、だいぶ慣れた方だと思う
剣心からの口付けはあまりにも甘くて優しくて、いつだってどきどきしっぱなしだった
毎日毎日、お互いの想いを確認するかのように合わせられる唇
そっと重なって、離れて、また重なって
時に壊れものを扱うかのように優しく吸われて
恥ずかしくて緊張するのは今も変わらないけど
その中で心地良さを感じられるようになったのは慣れた証拠だろう
けど、まだ自分からするのは恥ずかしくて
今はまだ与えられるだけで満たされてて
そう、思ってた



「ねぇ剣心、聞いてる?」
「あ・・すまぬ。なんでござるか?」
「も〜またぁ??」
さっきからずっとこんな調子だ
食事中、彼はほとんど上の空だった
なにか考え込んでるみたいだった
いくらわたしが話しかけても話題をふっても素気ない返事ばっかり返ってきて
どうやら食事も喉を通らないらしくほとんど手つかずだった
具合が悪いのかと聞いても、そうではないという
彼独特の穏やかな笑顔も今日は余裕がない様子

一体何を考えてるのか
一体何に悩んでるのか
何が、あなたの心を捕えているのか

食事を片付け、お茶を入れてもやっぱり剣心は黙ったままだった
話しかけるのにも疲れ、わたしはただぼんやりと彼を眺める

だんだん、不安になってきた
それ以上に、悲しい
二人でいるのに彼の心はどこかに行ってしまって

いつだって二人でいる時はわたしの話を嬉しそうに聞いてくれて、
わたしの事だけを考えてくれてるのに

自分を見てくれないことがこんなにつらいなんて

二人でいるのに一人で苦しまないで
わたしに分けてくれればいいのに
あなたの心からわたしを追い出さないで

ふいに、わたしはゆっくり立ち上がった
視線を下に向けたままの彼の前まで来て、座る
そこでやっと剣心がわたしに気づいて顔を上げた
「か・・」
彼が言葉を発する前に
そっと
その唇を塞いだ
とても軽く、けれどしっかりとぬくもりを伝えるように
わたしはここにいる、と
少し驚いたような彼にかまわず、わたしは彼を見つめた

「・・わたしがいるのに・・わたしをおいて他の事考えないで」

瞬間―
体に重みがのしかかり、気づいたら背中には畳の感触
押さえつけられた両手首
唇に、さっきと同じぬくもり
「んっ・・」
けれどそれはわたしが彼にしたものとは違って
もっと強く、深いものだった
「けんっ・・あっ」
しゃべろうと口を開けた瞬間、生暖かいものが口の中に入ってきた
「んぅ・・!?」
それに驚いて、剣心の背中を押し返そうと力を入れるけど彼はびくともしない
彼の熱い舌が
わたしの中にはいってきた
彼の熱い舌が
わたしの舌を絡め取った

熱く
熱く
熱い―

それは今までしてきた口付けとは全く違うもので
彼の吐息も唾液も想いも全て全て、わたしの中に注ぎ込まれる

「はっ・・んっ・・!」
その勢いについていけなくて、うまく呼吸ができなくてわたしの喉からこもった音が響く

苦しい
苦しい
だけど気持ちいい

初めての激しい口付けに、わたしの体は力を失い、思考はぼやける
その分強く伝わる、彼の想い

「薫殿っ・・」

今まで聞いたことないような声色にわたしの身体が震えた
今まで見たこともないような痛いくらいの眼差しにわたしの心臓が高鳴った
その声はわたしだけを求めて
その瞳にはわたし意外何も写っていなくて
その心にはわたししかいなくて
その瞬間、彼の頭には、心には最初からわたししかいなかったことを知る
体の熱がどんどん上昇していく

畳に押さえつけらた手に彼のそれが絡められる
互いの鼓動が聞こえてしまうくらい押し付けられた剣心の身体
離れない唇

逃げられない
逃げたくない

その晩、彼の唇が、体が、想いがわたしを離すことはなかった


それはある夜のこと
わたしたちの関係が変わった瞬間―





(終)




剣心、むらむら萌え萌え。
まだまだ若いですから。

















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