「うーん・・・」


薫はにらめっこをしていた。
お相手は、一枚の茶封筒。


縁側で正座したまま一体どのくらいそうしているのか。
なかなか手強い相手らしく勝負がつかないようだ。
呻ったり、首を振ったり、ぶつぶつと呟いたり。
なるほど、一人芝居をしているようにも見える。


「・・・どうしようかな・・」
「何がどうしようなのでござる?」
「!」


突然聞こえてきた声に薫は思わず肩を震わせた。



「け、剣心・・・」


薫が首を後ろに向けると、案の定剣心が覗き込むようにして立っていた。
思った以上に近い剣心の顔に薫は顔が赤くなるのを感じた。



「なんでござるか?」


剣心が薫の手にある茶封筒を指差した。



さぁ、どう言ったものか。


「え、えと・・」


さっきの一人芝居で練習したはずなのに言葉が出てこない。


「・・・・・・温泉・・・」
「温泉?」
「くじで当てたの・・温泉旅行・・・」


もじもじと手元を動かしながら薫が言った。


「当てた?すごいでござるなぁ」
「ほんとは左之助のくじだったんだけど・・・」


今思うと本当に左之助のものだったのかも定かでないが。
あのくじは町で買い物をしてもらえるものなのだ。
どうせ拾ったか、誰かから奪い取ったものなのだろう。


「で、行くのでござるか?」
「え?」
「だから、温泉に」


なんでとでもないようにそう聞いてくる剣心に
薫が困ったように きょろきょろと大きな黒目を動かした。


「・・・んーと、そのつもり、なんだけど・・」


剣心に答えを求めるように視線を送るが
剣心は「ん?」と罪のない表情で薫を見つめ返すだけ。


んもぅ!鈍いんだから


「だ、だから」
「うん?」


も〜!わかってよ!


薫の表情と裏腹に心の中でじれったい気持ちが暴れる。


「・・・・・・に・・」
「え?なんでござるか?」


ぽそっと呟いた薫の声が聞こえなかったのか
剣心が耳を寄せもう一度言うように促した。


い、言うのよ。
ひと言でいいんだから!


そう、ひと言。


一緒に


一緒に


一緒に




い・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一緒に」

「え?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行く・・・・・・・・?」


最後は聞こえたかわからないような大きさで。
しかしそんなこと気にしていられる余裕がないのか
薫はそそくさと下を向いて剣心から顔を逸らした。



一緒に、行きたいの。


「でも券は・・」
「二枚、あるの」


薫は茶封筒の中から二枚あるうちの一枚を出すと
下を向いたままそれを剣心に差し出した。


「・・・・・・・・・・・・・。」


ちょっと暫くの沈黙。
その一瞬が薫には気が狂ってしまいそうな程長く感じられて。




・・・・断られたらどうしよう。


そんな不安が先立って、思わず薫が出した手を引っ込めようとした時
指先から紙の感触が消えたのを感じた。
顔を上げると視線の先には薫から受け取った券を見つめる剣心がいた。
ほぅ、とかうむ、とか券を見つめながら一人で何か呟いている。




「いいでござるな。
一緒に行こうか」


にっこりと笑って。


剣心のその言葉に薫の表情が一瞬で鮮やかな赤に色を染めた。


「う、うん・・」


やった。

やったやった、やった。


それしか思い浮かばなくて薫はただ首を振って頷いた。


「おっと、湯を沸かしている途中でござった。」


券を自分の懐にしまいながら剣心が思い出したように言った。


「おいしい茶を買ってきたのでござる。」


ちょっと待ってるでござるよ、そう言って剣心が焦ったようにその場を後にした。


剣心がいなくなった途端薫は力が抜けたように体勢を崩した。
赤く熟して零れ落ちてしまいそうな頬に両手を当てて
薫はたった今までの会話を幾度も頭の中で繰り返した。


「・・・・・・・・・・。」



剣心と、温泉。


一緒に行こうか、だって。





薫は勝手に溢れてくる笑みを止められなくて
手元に残ったもう一枚の券で口元を隠した。



左之助に感謝、かな。







 →3






まだ恋人同士というには恥ずかしい、初々しさを残した二人。

この時期は薫殿が乙女真っ盛りなので書いてて一番楽しい時期なんだなー。

そして左之助がいるのは・・知ってのとおり管理人の趣味です(笑)

ここから先どうするかまだ考え中です。

大人しく温泉に行かせるか、それとも・・うーん、大人しくいちゃいちゃさせたい気もしますが。












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