「そうゆうわけだから、お留守番よろしくね」


一気に水を喉に流し込む弥彦を横目に薫が汗を拭きながらそう言った。
稽古の後程気持ちの良い瞬間はない。
一通り話しを終えて満足した薫をよそに、もの言いたげに弥彦が見つめてきた。
それを感じ取った薫が申し訳なさそうに肩をすくめる。


「だから謝ってるじゃない。
券が三枚あったら弥彦も誘うつもりだったんだけど・・」
「そうじゃなくてよ」


冷えた手拭いを薫から受け取りながら弥彦が意外そうな顔で言った。


「おまえら、いつから二人で温泉なんて行く仲になったんだ?」


弥彦の純粋な疑問に薫が言葉を詰まらせた。


「いつからって・・」
「なんだよ、はやく言えよな〜
そしたらもっと気使ってやったのに」


意味深な笑顔でそう言う弥彦の表情は左之助を思い出させる。
こんなとこばっかり似てきて先が思いやられてしまうではないか。
そしてそんな弥彦の前でも素直に反応してしまう薫は全く成長がない。


「子供が何言ってんのよ!」
「照れるなよ。道場のことは俺にまかせて楽しんでこいよ。
邪魔者は大人しく留守番しててやるからさ」
「ねぇ、あんたなんか誤解してんじゃ・・」
「おっと、赤べこの時間だ。
あ、妙には黙っておくか?」
「だからあ・・」
「温泉饅頭楽しみにしてるぜ。んじゃな」
「ちょ、弥彦!」


言いたいことだけ言うと弥彦は手拭いを薫に渡しさっさと走っていってしまった。
あれだけ稽古で体力を使ってまだ走る元気があるのだから感心してしまう。


「も〜!人の話を聞かないんだから」


一人になった薫はごろりと仰向けに縁側に転がった。
弥彦の言葉が、嫌に胸に残った。


男女が二人きりで温泉。
一般的に考えたら弥彦と同じ反応が返ってくるのが普通かもしれない。


いつからそんな関係だったんだ、って、そうじゃないから困ってるんじゃない。

だから、驚いたのだ。
すごくすごく嬉しかったけど。
あんなにあっさり了解されると思わなくて。
手を繋ぐことにさえ躊躇いを感じる、そんな二人なのに。


いつも優しい剣心。
優しいけど、優しいだけの剣心。


だけどそれだけじゃ、足りないと思うようになった。
もう一歩、進みたい。
だから、誘ったのに。


今から緊張している自分と反対に剣心は特に変わった様子もなく
いつものようにのほほんと家事をこなしている。


「嬉しそうでござるなぁ」って言うけど
ちゃんとわかってる?
温泉に行くことが嬉しいんじゃなくて
二人で行けることが嬉しいんだってこと。


「わかってない・・わよね」


旅してる間自然の温泉を見つけてはよく入っていたと嬉しそうに話した剣心。
温泉の湯は疲れを癒してくれるとか、自然の猿と一緒に温泉に入ったことがあるとか


温泉温泉て、
ちゃんとわかってる?
わたしと、二人きりなのよ?


「意識しすぎかなぁ・・」


もしかして、剣心はなんにも考えてないのかもしれない。
彼にとってはほんとにただの温泉旅行なのかもしれない。



もしそうだったら・・



そんな軽い気持ちで女の子と温泉に行けるような人だったら・・



「温泉に沈めてやるんだから」




いい加減、接吻の一つくらい期待させてよ、ばか。





 →4





そーなんです。接吻もまだなんです(笑)

そりゃあ薫殿もやきもきしちゃうよねぃ。

今回は「何考えてるのかわかんない」剣さんと「好きでしょうがないのに〜!」な、薫殿を

好き勝手楽しんでます。















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