なによ。
なによなによなによ。


そりゃ、この人がこうゆうことに疎いのはよっく知ってた。
鈍感なのも、よっく知ってた。
だけどだけど
何か、言ってくれたっていいんじゃない?


こんなに、
こんなに頑張ったのに!
弥彦でさえ気づいてくれたのに
(塗り過ぎだってからかわれたけど・・それとも本当に塗り過ぎだったのかしら?)
でも、塗りすぎってことは気づかないわけないわよね?
だったら何?気づいてるのに何も言ってくれないってこと?

それってそれってなんか・・
すごく、頭にくる!!


「天気が良くてよかったでござるなぁ」



そんな葛藤に気づく様子もなく剣心は薫の一歩前を歩きながら
のほほんとした口調でそう言った。


伊豆の風は潮の香りがする。
温泉で有名なこの地に剣心は以前も来たことがあるらしく
懐かしい景色を楽しんでいるようだ。
薫はといえば、あまりに自分に無頓着な剣心にさっそく落ち込んでいた。


お気に入りの藍色の着物にいつもなら桃色の帯を合わせるのだけど
今日は白地に大きな桜模様の入ったものを選んでみた。
髪はいつもと違うように高く結い上げてみた。
いつもはしないけど、頑張って化粧もしてみた。
(突然満面の笑みでやってきた妙さんにほぼ無理やり勧められたのだけど。
黙っておくと言ったくせに、弥彦がばらしてしまったらしい)


正直、自分でも気に入っていたのだ。
今時の、そのへんの街を歩く自分と同じ年頃の女の子にちゃんと見える気がする。
いつもの汗くさい道着に飾り気のない髪型に比べたら
ずっとずっとマシなはずなのに。


それなのに剣心は、特に大きな反応も言葉もくれなかった。
これでははりきった自分が馬鹿みたいだ。


そんなわけでせっかく二人でここまで来たのに
薫はすでに気落ちしていた。
おまけにでこぼこした歩きにくい散歩道に足がさっそく疲れ始めている。
やっぱり新しい下駄を履いてくるんじゃなかったのかもしれない。
一歩一歩歩く度に、薫の後ろ向きな思考が加速する。


もしかしてわたしって、魅力ないのかしら?
こんな風に着飾ってみてもなんとも思われないくらい、色気がない?
それともどんなに着飾っても剣心には同じように見えるのかしら?
でもそれってつまり、剣心がわたしに全く興味がないってことじゃ・・


「きゃっ」
「おっと、」


突然肩に衝撃を感じて薫は前のめりに倒れそうになった。
下を向きながら考えごとをしていたら
案の定前から歩いてきた人とぶつかってしまったのだ。


「ご、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですか?」


よろけた薫を支えたのは薫より少し背の高い青年だった。


「ここは歩きにくいから、気をつけた方がいいですよ」
「はい、すみません・・
あ、粉が・・」


寄りかかった拍子に青年の肩に
薫の白粉が付いてしまったらしく、かすかに白くなっていた。


「あぁ、気にしなくていいですよ。
それより・・」
「薫殿」


背の高い青年の肩越しに赤い髪が揺れて見えた。


「大丈夫ござるか?」
「う、うん。大丈夫・・」
「あ、それじゃあ自分はこれで・・」


青年は後ろからやってきた剣心と薫とを交互に見やると
その間から抜けるようにさっさと行ってしまった。



「薫殿」



きちんとお詫びをしそこねた薫が
青年の後を視線で追おうするより先に剣心が声をかけてきた。


「ちゃんと前を見て歩かないとまたこけるでござるよ」


その言葉に薫はむっとした。


何よ、誰のせいだと思ってるのよ。


ひと言言ってやろうと思ったが、薫は思わず出かかった言葉を止めた。


剣心が手を差し出してきたからだ。
思わぬ剣心の行動に薫はどきりと胸を鳴らした。


「もう少しで着くはずだから」


「う、うん・・」


薫がそこに躊躇いがちに手を乗せると剣心が軽く握り返してきた。


そして二人、ゆっくりと歩き出す。
さっきより剣心が歩幅を合わせてくれているのがわかる。
さっきのように前と後ろで歩くことなく、肩を並べて。


これだけでさっきまでのもやもやが消えてしまうんだから不思議なものだ。


ゲンキンだなぁ、と思ったが
零れてくる笑みはやっぱり隠せない。


繋いだ手が、あったかかった。





 →5






乙女はゲンキンでいいんです。

わたしは手を繋いで歩く二人を書くのが好きらしい。















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