ゆっくりと剣心の唇が離れていくのを感じて
薫はほぅ、と息を零した。
顔がひどく熱い。
まるで溶けるような心地だ。




わたし、剣心と・・




「・・・・ん?」


首筋に、くすぐったい感覚。
柔らかいものが薫の肌をゆるゆると滑っていくのを感じた。
ぎゅ、と抱きしめられて。


「け、剣心・・?」
「ん・・?」
「あ、あの・・」


剣心の声が直に耳元に響く。
嬉しいんだけど、すごく恥ずかしい気もして。


「その・・」
「これで終わりとは言わせないでござるよ?」
「ひゃっ」


耳たぶがじりりと熱くなった。
剣心がそこに軽く歯を立て、擦るようにくわえてくる。


「な、なに・・」
「薫殿は二人で温泉に行くのがどうゆうことかわかってない」


いつもより低いその声はまるで剣心のものではないようだ。


「あんな風に着飾って、その気にさせるような態度ばかり見せて
拙者がなんとも思っていなかったとでも思ったのでござるか?」
「んっ」


濡れた舌が耳元を這い回る感覚に薫は神経を震わせた。


「はっ・・」


剣心の顔が吐息を残しながらゆっくりと離れていく。
ひどく、身体が熱かった。



「けんし・・」



しゅるっ。




「え・・」


感覚を失いつつあった耳に布擦れの音が聞こえてきた。
上半身を起こした剣心が薫の目の前で 突然寝巻きの腰紐を解き始めたのだ。


「け、剣心?」


薫は一瞬剣心の行動に疑問を覚えたが
彼が何をしようとしているのか気づくと顔を真っ赤にして慌て出した。


「ちょ、ちょっと、あのっ」
「言ったでござろう?
その気にさせたのは薫殿だって」


そ、そんな!
まだそこまで覚悟できてなっ・・・


しゅるるっ。


「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」


薫は剣心から逃げるように勢い良くうつ伏せになると 両手で顔を隠した。




どどどどどっ・・どーしよ〜〜〜〜〜!!!!!
だめだめ!まだ見れなっ・・・













くす。




くすくすくす。



「・・・・・・・・・・?」


なに笑って・・



「冗談でござるよ」




「は・・」
「びっくりしたでござるか?」


その言葉に薫は恐る恐る首を後ろへ向けた。
指の間からそっと閉じていた目を覗かせると
解きかけた腰紐を結び直している剣心が見えた。
たった今までの彼とは想像もつかないのほほんとした笑顔で薫を見下ろしている。
その笑顔に、薫はからかわれたのだと気づいた。


「・・・も、も〜!」


薫の身体から一気に力が抜けた。
そんな薫を見て剣心がさらに満足そうに顔を緩ませる。
いつもの、いうよりこれは厭らしい笑顔といった方が正しいだろう。


「しんじらんない!」
「すまぬ、つい」
「ついって何よ〜!」


怒りと悔しさと恥ずかしさにまかせて薫はめいっぱい両手で剣心を叩いた。


「あたた、痛い痛い」
「ひどい!ばかばか!さいてー!!」


いくら叩いてもにやにや笑ったままの剣心に薫はますます終始がつかない。
結局最初から最後まで彼のペースなのだ。


「ばか!ばか!剣心のばか!!」
「だって薫殿が・・」
「わたしが何よ〜!
ばかばか!
もういい! 剣心なんて知らない!」


薫は腕を組むとぷいっと剣心に背を向けた。


ほんっっとにしんじらんない!
すごく怖かったんだから
びっくりして、怖くて・・

なのにわたし、なんでこんなにがっかりしてるの?




「薫殿。」
「・・・・・・・。」
「ほんとにすまなかった。
機嫌を直してほしいでござるよ」
「・・・・・・・。」
「薫殿があまりにおかしくてついからかってしまいたくなったのでござる」
「おかしっ・・!?」
「あ、そうでなくて、だから」



―あまりに可愛らしくて―



つい、と剣心が幾分小さい声でそう言った。


「・・・・・・・・。」
「・・・薫殿・・?」



はぁー・・・


思わず深いため息が出てしまった。
剣心にじゃなくて、自分に。

情けない。
ほんとに頭にきたのに
鈍感で
デリカシーもなくて
女の子の気持ちちっともわかってくれないのに

どうしてわたし、 こんなたったひと言で何もかも許しちゃうのかしら?




「・・・・ら。」
「え?」



悔しい
悔しい
悔しい悔しい

ほんとにほんとに悔しいけど



「・・・もう一回、してくれたら・・許してあげる・・」


悔しいけど、それに負けないくらい嬉しかったから


さっきの感触を思い出すように唇に指をのせて。






はぁー・・・



「・・・・・・・剣心?」


返事が返ってこない。
その代わりに、自分と同じような 深いため息が聞こえてきた。


「・・・・だから、それが誘っていると言ってるのでござるよ」
「わっ」


いきなり強い力で腕を引っ張られて薫は思い切り後ろに倒れこんだ。


「ちょっ、んっ」


強く身体を抱きしめられたかと思うと
心の準備をする間もなく剣心の唇が降ってきた。



「何度も言うけど、その気にさせたのは薫殿でござるから」






もう一回って言ったのに
もう一回だけでよかったのに


終わりのない口付けの嵐に、すっかり文句も抗議の言葉ものみ込まれてしまった。





 →8





こんな二人ってありでしょうか。

こうやって助平な冗談で10歳年下の薫殿をからかってくれるといいんだけどな、緋村さん。

次で最後だと思われます。

思ったより長くなってしまいました。(いちゃこいが)

読んでくださった方、ご苦労様です(笑)















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送